東京高等裁判所 昭和51年(ネ)3100号 判決
元来、抵当権設定登記をする場合に登記すべき被担保債権額は、抵当権設定時の債権額であるべきであるが、ひるがえって考えると、抵当権の設定登記をする場合に被担保債権額が登記事項とされているのは、被担保債権を特定するためであり、この見地からすれば、抵当権設定契約に基づいてされた抵当権設定仮登記に表示されている債権額が抵当権設定時における実際の債権額より過大であったとしても、それが債権成立時における債権額と合致するときは、通常は抵当権の被担保債権の特定に欠けるところはないものというべきであるから、そのような仮登記がされている場合には、特段の事情のない限り債権者はこれに表示されている債権額につき右仮登記に基づく抵当権設定の本登記手続を請求し得るものと解するのが相当である。このように解しても、債権者が支払を受け得るのは現実に残存している債権額についてのみであるから、抵当権設定者はこれによって特段の不利益を被るものではない。
本件について見ると、本件抵当権設定契約に基づいてされた抵当権設定仮登記に被担保債権額として表示されている七〇〇万円という金額は、前記二口の貸金債権の成立時の元本額を合算したものであり、抵当権設定時における客観的な債権額六五二万〇、五〇〇円より過大であるが、その差異の生じた原因は契約当事者が天引利息中の利息制限法超過部分の元本充当に気付かなかったためであると考えられるので、右債権額の表示は抵当権の被担保債権を特定するのに十分と認められる。したがって、被控訴人は右抵当権設定契約の履行として控訴人に対し、金七〇〇万円の債権額全額につき前記仮登記に基づく本登記手続を請求し得るものというべきであり、右抵当権の被担保債権の元本額を争う控訴人の主張は、被控訴人の右請求を拒む事由とはなり得ない。
(外山 近藤 鬼頭)